ただの物語

艨ィパラシュート←
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…この国では昨日またある事故がおきた。…大学生2人の水難事故だ。このニュースをみた国民はまたか程度にしか見なかったろう。たしかに夏のこの季節。こういった事故は後をたたない。
――――。だが国民は知らなかった。この事故の【裏】を………!
…首相官邸では閣議がおこなわれていた。
スクリーンには二人の大学生が写しだされていた。
「首相!御決断を!」
……首相の村田は悩むふりをした。もう考えはまとまっているのに。
「ううむ…。」
…………閣議が始まって6時間がたとうとしている。首相官邸に一本の脅迫電話があったのは5時間前の事である――。
相手は日本語を話したとの事。現在わかっているのはそれくらいだ。
どうやらA国の某テロ組織がからんでいるらしかった。その男がリーダーかは未だ不明だ。
「首相、早く!」
村田はまた悩むふりをした。ぐずぐずしていると、次の総理の呼び声高いとされる一人が業をにやして勢いよく立ち上がった。
「総理!即刻A国への攻撃を止めるべきです!条件をのまないと二人の学生の命が奪われます!」
この男の言う通り、昔からA国とは敵だった。原因は、太平洋にうかぶ波頭島の領土問題である―――。
―――昔からだ。波頭島をA国と取り合っていたのは。だがその時は日米戦争の真っ只中で、アメリカはA国に荷担した。
日本が勝てる訳もなく、波頭島はA国の領土になった。…だが。それから50年がたち日本は島を返還するように要求。だが、A国は要求に応じず、この問題は平行線をたどっていた。
―――そんな最中である。以前から核開発を進めていたA国が日本領海にミサイルを実験発射した。
………村田にとってこの一撃は絶好の機会になった。相手から仕掛けてきたのだ。村田はこれを威嚇とみなし、正義面して自衛隊を送りこんだ。
――これからの展開は早かった。
今はアメリカがバックについている。武力に格段の差がある。
日本は多少な不安に包まれながらも平和に暮らしていた。比べA国は火の海だった。毎日大量の死者をだしていた。
A国の敗戦は明白だった。だが村田は攻撃をやめなかった。徹底的に潰そうと。あわよくばA国も日本の領土にしてしまおうと―!
…村田がここまで執拗にA国を潰すのには理由があった。過去の戦争で父親を失った。
貧しいながらも村田少年は毎日を楽しくすごしていた。―――。そんな時、ついに【赤紙】がきたのだ。
父が配属されたのが、波頭島だった。そこで父はあっけなく戦死した。その事実は国から伝えられた。一枚の紙切れだった。
この件を機に、村田少年はA国に恨みを抱くようになった。復讐するにはどうすればいいか。簡単であった。国のトップに昇りつめればいい。
村田少年は復讐のために必死に勉学にはげみ、様々な過程をへて、ついに総理大臣に就任したのである。
彼の計画は現実になろうとしていた。しかし、その一歩手前でテロによる脅迫があったのだ。
―――村田は悩んでいた。しかし決断をではない。ハナから決まっている答えをきりだすタイミングを伺っていたのだ。
「総理!」「総理!」
様々な所から声がとぶ。すがりつくような視線。村田はそれがうっとうしかった。村田はスクリーンの前に立った。
全ての人間の意見は一致している。村田も同じ意見だろうと決めてかかっていた。村田は静寂を切り裂いた。
「私はテロには屈しない!犯人の指示には従わない!」
…室内がざわついた。
「首相!では二人の学生は拉致されたまま見殺しですか!?そういう事ですか!?」村田は冷静を装う。ここでA国への攻撃を中止したら何もかも無駄になる。
「総理!そんな事したら信用はがたおちですよ!?」
村田は我慢しきれず言った。
「この事実は公表しない!あくまで水難事故として発表する!」
その決断に一同は愕然とした。
「そんな…総理!」
村田はいい放った。
「以上!」
…国民の70%以上の信頼を得る総理のこおりつく決断であった。


目が、覚めたのか…。
なのに何も見えない。
閉じ込められているのか。または真夜中―――?
スクリーンに写し出されていた大学生の一人、福山賢一は釈然としなかった。
「痛てぇ…。」
体に無数のキズがあるようで体が燃えるように痛いのだ。体を動かそうとしても縛られているようで動けない。
賢一の脳裏に光線がはしった。そうだ。俺は光太郎と近くのコンビニに買い物にいったユリを待っているとき、突然何者かに襲われて…。ボートに乗せられて…。…それからは覚えてない。
光太郎というのは無論、拉致された大学生の内の一人、池本光太郎である。
「…ここどこだよ…。」
生きている事は確かだ。
しかし更なる不安と恐怖が賢一を襲った。
……光太郎がいない。
「光太郎!光太郎!」
いくら叫んでも答えは返ってこない。
…ダメだ。逃げ出せない。【無】の空間に取り残されたような。そんな感じ。
―――。俺と光太郎。そしてその彼女のユリとで砂浜でしんみりと線香花火をしていただけだ。
その後、ユリが飲み物を買いにいった。その直後、覆面を被った連中に袋叩きにあい、つれさられた。それ以降の記憶がない。
賢一は叫んでいた。
助かるために。
そして動きがあった。
扉がギシギシと音をたてて開いたのだ。光がわずかに差し込む。
だが当然、安堵は出来なかった。目を細めながら光の先を見据える。
扉が開ききると、そこには背の高い痩せほそった人間の影が現れた。
賢一は恐怖か戸惑いか、声を発する事が出来なかった。
その男は俺の体をまいていたロープをほどいた。
反抗しようと思ったがすぐに止めた。こめかみに銃口がつきつけられている。
相手には仲間が数人いるようだ。
俺は困惑した。相手の言っている事がまったくわからない。外国語なのだ。よく見ると、全員が日本人じゃない事が分かった。
「立て」


扉の近くに立っている男が通訳した。
「おい…光太郎は無事なんだろうな。」
愚痴を言うが相手はそんな事お構いなしだ。
力で敵うはずもなく、無理矢理たたされた。
男達は賢一を無理矢理歩かせた。
「おい…っ!どこにつれてく気だ!」
賢一の言葉にまったく反応しない。
が、次の瞬間、賢一はかすかなモーターの音がしていた理由が分かった。
窓から見える一面の青い空白い雲。
ジェット機かなにかに乗せられている。
ここは日本か―?わからない。
そこで賢一はようやく気付いた。周りは全員、迷彩服をきている…。
テロか…?
通訳らしき男が話しかけてきた。
「お前、歳は?」
「21。」
「大学生か?」
「そうだ。」
「運が悪かったな。」
その言葉に賢一は青くなった。やはり殺されるのか。「お前達は国に見捨てられたんだ。…たく。これで俺達はお前たちがようなしになった。」
混乱する賢一に男は簡単な説明を始めた。
「日本は今。私達の祖国に攻撃を仕掛けている。無意味な戦争を行っている。そのせいで多くの犠牲者がでている。」
戦争ときいて賢一はすぐにある国を思いうかべた。
東南アジアに浮かぶ人口の少ない国。
よくニュースでやってたが、他人事のように見てた。「火の海だ。村も町もあらされて。」
賢一は思った。俺には関係ないだろう?
こんな権力もない大学生をさらってどうするのだ。
「だから俺達は立ち上がった。お前達を人質にとり、日本に条件をだした。」
条件?なんだ?
「攻撃を止めなければ人質を殺すと。」
賢一はさっきの言葉を思い出した。
「お前達は国から捨てられた。」
全身から血の気がひいた。俺達が国から捨てられた―――――?
「分かった?だから殺す。」
賢一は覚悟を決めた。
「分かった。国から捨てられたんならしょうがないな。」
男は銃をセットした。
「お前はききわけがいいな…。惜しい男だ…。仲間だったらよかったのにな…。」
「ふん。聞き分けがいいのだけが取り柄でね。」
男は賢一の頭に銃を突きつけた。
「最後にいう事はあるか?」
「光太郎はどうした?」
「あぁ、もう一人の方?あいつなら、さっきすぐに違う所で殺された。あっち担当は短気だったから。」
賢一は不思議と落ち着いていた。
「そうか…。分かった。なら俺も安心して逝ける。」
「じゃあな。」

――――――室内に乾いた銃声が響きわたる。
この事実は、日本の誰も知る事はなかった………………。







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