2018年4月27日(金)。 【 底知れない君の武器で 打ち砕く虚無的なイデオロギー【第1話】】 井上一馬いのうえかずまはどこにでもいる高校二年生である。 成績はクラスでも上位で、身長は165cmのやせ形でなかなか太らない体質だ。 しかし、彼に付けられたあだ名はイノブタであった。 井上とブタ野郎の合いの子で一馬は長い間“イノブタ”と呼ばれていた。 一馬は登校するなり三人の男子に囲まれて殴る、蹴るの暴行を受ける。 まだ、金銭を要求されたりと言ったものはないが、いずれ恐喝へとシフトしていくであろうことは一馬だけではなく傍観している人間も予想できた。 授業が始まる頃には一馬の学生服には白い足形がくっきりと付き、鈍痛が襲う。 一馬を殴っていた生徒たちはニタニタと笑みを浮かべながら席に付きホームルームの開始を待った。 そこに肥満体型に四角い眼鏡が特徴の中年の担任教師が入ってくる。 「ホームルームを始めるぞ、委員長、号令」 先ほど一馬を殴っていたうちの一人が号令を掛ける。 「起立、礼、着席」 担任教師は一馬のほうを見ようともせず、伝達事項を話すと職員室へと帰っていった。 「ポン太も大変だよな、お前みたいなクズが受け持ちに居ると」 「そうだな」 委員長こと岡村雄太と、その取り巻きが一馬を取り囲む。 「なんか言えよイノブタ」 「さっさと死ねよ」 岡村は成績もよく、校則違反をするような事も無いため教師たちも多少の事は大目に見ていた。 いわゆる、いじめの隠蔽は飛び抜けた不良よりこうした外面のいい“優等生”に対して行われる傾向にある。 場所にもよるが、ひと昔前の不良マンガのような染髪して改造制服を着ているようなものは少ないのだ。 優等生もしくは中間層による継続的かつ陰湿なものが主流となり、近年ではインターネット等での誹謗中傷および情報流出などの電子的攻撃も行われるようになっている。 対して教師は「事なかれ主義」であり「実情を把握していなかった」とするため生徒の訴えを適当にあしらい関与しない。 こうした事情から、学校といった密室でのいじめは進行していくのである。 岡村とその取り巻きは一馬を小突くと、次の授業の準備を始める。 岡村たちが居なくなると一馬は通学鞄から教科書を取り出す。 たびたび隠され、手荒な扱いを受けたことによって表紙がひどく折れている。 落書きはされていない。 なぜならば、一馬は“忘れ物の多い”生徒だからである。 落書きをすればいじめが露呈するし、なにより、忘れ物をよくする一馬の思い込みであるといった逃げ道がなくなるからである。 教科書を使う授業の間は殴られることもないので一息つける。 教科書や宿題を忘れて教師に叱責されるのにも馴れたし、嘲笑されることさえなんとも思わなくなった。 一馬はじっと頭を低くして時間が経てば不愉快な事も苦痛も過ぎ去るだろうと心を閉ざす。 休み時間と並んで嫌だったのが体育の授業である。 一馬は運動があまり得意ではないし、サッカーやバレーボールと言った球技も出来ない。 パスが回ってこないのは当たり前で、採点の都合で全員参加と体育教師が言うと一馬もゴール前争いやトスに参加せざるを得なくなる。 全くの未経験者がいきなりパスを回されて上手くいくことなど滅多になく、失敗する。 その後、失敗したことを理由に教室などでリンチが始まるのだ。 柔道の授業では、練習と称して絞め技や投げ技をはじめとしてありとあらゆる暴行が加えられた。 しかし、柔道の練習という大義名分がある以上教員も強く言えないでいた。 ここまでであればごく平均的ないじめられっ子の一日である。 学校という集団があるかぎり、いつの時代にも、どこにでもある普遍的な人間の醜悪な面。 傷害、暴行、名誉棄損、器物損壊。 “学校の中は治外法権である”とある人は言った。 全てが「いじめ」というオブラートに包まれ、刑事事件として立件されないのである。 しかし、現実はいじめというもの自体が隠蔽され、自殺をもってしても因果関係はないとされるのだ。 一馬に対する教員の認識は「大人しく社交性が無い子でクラスに溶け込めていない」というものである。 家に帰った一馬は母親に心配をかけまいと笑う。 そうして自室に閉じこもって現実から逃げるように眠る。 両親は息子の異変に気づいていたし、先月に学校に相談していたが教師たちは何の対策も取らなかった。 どうして一馬がいじめられるのかは小学校時代に遡る。 井上一家は県外からある新興住宅街へと引っ越してきた。 そこで代々暮らしてきた“ムラの人間”と余所者という溝がきっかけでいじめられるようになったのだ。 小学校の教師も同級生で、さらに地の人間であることからいじめの首謀者に強く言うことも出来ずに「なあなあ」で済ませてきたのだ。 そうして育成された悪ガキたちも中学校に入ると隣の校区の悪童たちと混ざってなお悪くなる。 羽目を外して暴れ回るタイプの不良、いわゆるヤンキーが集まり、恐喝や暴行などを働くようになるが後先を考えない彼らはよく警察の厄介になっていた。 ここで一馬をいじめていたグループのうちの一つが傷害致死、死体遺棄事件を起こして芋づる式に逮捕された。 一馬は携帯電話を持っていなかったため、死んだ少年のように携帯電話で呼び出されてリンチ死せずに済んだのだった。 そうして残ったのは優等生の皮を被った狡猾ないじめ首謀者とその取り巻きであった。 偏差値も似たようなところにあったことから、一馬と岡村は同じ高校へと進学してしまったのだ。 新しい学校での静かな生活は岡村が全て台無しにした。 陰口を叩き、新しい取り巻きを見つけて一馬をイジメるようになったのである。 助けようとする者もいたが、ことごとく被害に遭い一馬から距離を置くようになった。 今では加担するものか遠巻きに見て関わろうとしない者に分かれていた。 一馬自身も長年のいじめによって人と話せなくなり、なおかつ人を信用しないようになっていた。 4/27^11:03 [WRITEセ] [更新通知] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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