DiAяу

2018年4月27日(金)。
【 底知れない君の武器で 打ち砕く虚無的なイデオロギー【第2話】】
 よく不登校にならなかったものである。
 もっとも不登校からのひきこもりになるものは逃げるという選択が出来る者であり、自殺などに追い込まれてしまうのは不登校という選択ができない者に多い。

   一馬も自殺を考える一人だった。

__飛べば楽になるか、飛び込みはすごい額を請求されると聞いたな、首つりは苦しそうだよな。

 死ぬのも怖いし、踏ん切りがつかずにただ苦痛の毎日を過ごしていた。
 そんな一馬が復讐を実行しようと決めたのはある女子との出会いがきっかけであった。

 春、下級生の女子生徒が困っている様子だったので、一馬は助けてあげることにしたのだ。
 久々の異性との会話にたどたどしく、音楽室の場所を教えたのだ。

「ありがとうございます先輩、助かりました」

 長らく聞かなかった感謝の言葉に一馬は嬉しくなった。
 ところが、それがきっかけでその女子生徒に対していじめが始まってしまった。
 とても可愛らしく、庇護欲をそそるような容姿でクラス内でも人気があったが、女子の一部は嫌っておりいい機会だとばかりに嫌がらせを始めるようになった。
 それを知った一馬は自分のせいだと悩みはじめた。

「おい、メス豚よぉ、イノブタと交尾しろよ」
「豚は豚同士やるのがお似合いだっつうの、アンタに省吾君はもったいないって」
「そうよ、先輩でいいじゃん、よかったねー辛さを分かってくれる素敵な旦那様が居て」
「お前ら結構エグイな、俺らも人の事言えねえけど」
「いつまでぶりっ子してんの? イノブタ先輩もアンタみたいな子で童貞捨てたいって思ってるって」
「おら、ごめんなさいは? ほんと生きてる価値ないわアンタ」

ある男子生徒に告白されたということから、彼女は一馬と共に裏庭に引きずり出された。
周りから囃し立てられ、女子生徒は泣き出した。

「先輩、この子体だけは良いんで見てみますか?」

 二人とも服を脱がされる直前で人が通ったためなんとか全裸写真は回避した。
 このあと女子生徒が不登校になったことを一馬は知った。

 気弱で温厚、優しい子と言われていた一馬に復讐の炎が灯ったのはこの事件がきっかけであった。
 六月に入ってすぐ、ノルウェーの高校で爆弾テロ事件が起こり36人が死傷する事件が起こった。
 マスコミは使用された爆発物と事件について繰り返し繰り返し細かく放送した。
 このニュースに一馬は感化されて爆弾作りの妄想にふけるようになる。
 妄想こそしても具体的にどういった手で報復するか考えつかないまま、学校は夏休みを迎えた。

 母親と近所のショッピングセンターに行ったとき偶然にも岡村とその彼女を見つけた。
 見つからないように身を隠し、やり過ごす。
 彼女に軽薄そうな笑みで笑いかける岡村に一馬の腸は煮えくり返っていた。

__散々痛めつけておいて彼女作って楽しそうにしやがって、ぶっ頃してやる。

 家に帰った一馬は爆弾製造に関するわかりやすいホームページなどを“日本語”で探した。
 “爆弾製造”などの反社会的ワードは管理者などによって削除するか自粛という措置が取られているのである。

「こんな掲示板のスレしかないか」

 爆発物に破片効果フラグメンテーションを生む釘やボルトなどを梱包することなどしか分からずじまいであった。
 爆発物の核になる炸薬さくやくと起爆装置、火工品かこうひんに関する記述が少ないか、あるいは実用的でないものが多かった。
 硝酸アンモニウム肥料で硝安油剤爆薬しょうあんゆざいばくやく(ANFO)を作るであるとか、そこに花火をばらして作った自作雷管らいかんを取り付けるとかいったものである。

「こんなの買えないよ……」

 硝酸アンモニウム肥料は爆薬に転用可能であるという特性上日本ではあまり販売されていない。
 まず6号電気雷管一本でも爆発しないほど衝撃感度が低いのだ、たかだか煙火えんかをほぐしただけの素人雷管で爆発する可能性は低いだろう。

 学生運動時に用いられた塩素酸塩の爆薬も多少知識があれば使いたくない物だ。
 極めて鋭敏で製造中に摩擦で吹き飛ぶことがある。

 過去には消火器爆弾を作ろうとしてアジトごと吹き飛んだり、手足を失ったりする事故も起こった。

 爆弾製造をうたったサイトの一部にはこうしたトンデモなものも多いため、実際に作ってみようなどとは考えないように。


 結局、幾つかのページを回り一馬が作れそうだと考えたのが、がん具煙火をばらして作る黒色火薬と数種類の酸化剤の混合物であった。
 もう一つは爆発と共によく燃える可燃性ゲル、焼夷剤しょういざいを撒く焼夷弾しょういだんである。

 手製爆弾を作ろうと決めた晩、一馬はよく眠れた。
 新学期まであと25日、休みは始まったばかりだ。


 朝食を食べていると、関東地方の河川敷で男子中学生が少年たちに川に投げ込まれ溺死したというニュースが流れた。
 母親が一馬に問いかける。

「あなた、変な呼び出しとか受けてない? 行っちゃダメよ」
「うん、分かってるよ。俺だって死にたくないし」
「そう、何かあったらお母さんに言うのよ」

 一馬は珍しく歯を見せて笑った。
 母親は夏休みということで気分が良いのだろうと思い、同時に休みが終わる時にどうなるのかという心配をするほどであった。
 そんな親の心配をよそに爆発物の材料をどこで買うかの算段を立てていた。

__まるで、小学校時代の夏休みの工作だ。

 ホームセンターに行き、焼夷剤の原料となる洗剤やゲル状着火剤を購入する。
 同時に、ユニクロームネジ数本と薄いステンレス製パンチボードを調達した。
 これらは破片効果の増強等に用いられるのだ。

 買い集めた材料を部屋に持ち込み、早速組み立てる。
 文字だけではイメージが沸かないので画像は無いかと爆弾関連の記事を辿っているとある書き込みを見つけた。


433:アングラな名無しさん:201X/08/02(月):17:14:32.03ID:k9uRa5o
>>429
初カキコ…ども…かよ
グロ画像見たいなら海外のサイトにアクセスすりゃすぐ見れる
中東のページはグロから爆弾製造法までなんでもあるし
まず、日本国内の掲示板で聞いてる時点でお察し




「そうか、テロリストもいるもんね、向こう」

 一馬がおそるおそるリンクを踏むと、そこにはテロ組織の上げた動画や静止画がいくつも並んでいるサイトに出た。
 パイプ爆弾や不発弾を利用した即製爆発装置、通称:IEDの作り方のほか、殺傷効果の高い爆発物の使い方などが掲載されていた。
 男が乱入し、バンという破裂音と共に土埃が立って黒いブルカ姿の女たちは消えた。
 どうやら学校での自爆テロの宣伝動画らしい。
 文字こそ読めないものの一馬は動画で爆発物を使う方法を学んだ。

「これくらいの英語なら分かるな」


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