DiAяу

2018年4月27日(金)。
【 底知れない君の武器で 打ち砕く虚無的なイデオロギー【最終話】】
 リンクを辿って行くうちに武装組織が国外向けに掲載する“台所で得る強力な杖”を見つけて焼夷弾の作り方を学ぶ。

 こうした国外の情報源に感化されてのテロ行為は近年欧米でも問題になっており、ホームグロウンテロと呼ばれている。
 ホームグロウン型のテロリストは背後関係の無い単独犯である事も多く、従来型のテロ組織と異なり事前に阻止することが難しい。
 自国民が日常生活を送りながら教育を受けたテロリストと化す……高度な情報化社会がもたらした新たな脅威である。
 一馬の場合、政治的主張があるわけでもないのでホームグローンテロリストには当たらない。
 しかし、明確な殺意を持った爆弾魔であることは確かだった。

 花火や発炎筒と言ったがん具煙火えんかの火薬に武装勢力のマニュアルに載っていた添加物を加えて容器に詰め、手で折って切手大にしたパンチボードやボルトを詰めてゆく。
 スプレーの高圧容器に詰めた破片爆弾と、対象の逃亡を防ぐためのペットボトル焼夷弾を組み立て終わったのは始業式の二日前だった。

 運搬方法は、体操服などを入れる補助鞄に破片爆弾を三発入れ、焼夷弾は内容物が漏れる危険性から持ち歩かずに校内に隠しておき実行日に点火できるようにする
 余った焼夷剤とコンドームで作った焼夷コンドーム弾を三発携行して、万が一破片爆弾が不発でも確実に焼殺できるようにする。
 最初から逃亡することを考えない片道攻撃である。

__俺はあいつらを確実に殺す。それだけだ。



  わずかに残った良心が、実行のタイミングを遅らせた。

 そのとき、悲劇は起こる。

 始業式の翌日に下級生の女子が、住んでいたマンションから飛び降り自殺を図り意識不明の重体となったのだ。
 一馬が爆発物製造にいそしんでいた間、彼女は頻繁に呼び出され様々な嫌がらせや脅迫を受けていたのだった。
 テレビのニュースでは高校一年生の女子生徒の転落事故とだけ報道されていたが、校内ではすでに特定されており、保護者説明会が開かれることになったのである。

 学校側は例のごとく「いじめがあるとは認識していなかった」と定型文のような回答を出した。

 二年生の教室でも飛び降り自殺の話で持ち切りであり、自分たちが彼女を追いやったという罪悪感というものは全くなかった。

「イノブタぁ、次はお前が死ねよ」
「あの世で彼女さん待ってるぞ? ってまだ死んでなかったわ」

 岡村と取り巻きが笑う。
 取り巻きの一人と女子生徒をイジメていた女子は部活の先輩・後輩関係である。

「しっかしもったいねえよな、どうせ死ぬんなら死ぬ前にやらせてくれりゃいいのによ」
「おまえ、それしかないのかよ。今、病院行ったらヤレんじゃね」
「お前ら下半身直結かよ、で、イノブタ、お前のせいだぞコレ、分かってんの?」

 一馬は罪悪感のかけらもなく下品に笑う岡村とその取り巻きたちに、殺害を決意した。

__俺のせいか、そうだな。これでお前らを殺す覚悟が出来たよ。

「なんだ、後輩ちゃんのアソコに突っ込む妄想でも始めたか? キモッ」

 取り巻きの一人が一馬の表情の変化に気づいた。

「気持ちわりーんだよ、お前は生きてるだけで迷惑なんだからさっさと死ね」

 岡村も異質な何かを感じたが、どうせ虚勢だろうと鼻で笑った。
 それが復讐の銃弾を装填した音とも気づかずに。


  実行日は雨上がりで湿気が多く、一馬は好都合だと思った。

 静電気による誤爆が起こらずに済む。
 いつものように家を出て学校に着くと、体育倉庫裏のわずかな隙間の陰にあった焼夷弾を取り出す。
 焼夷剤を均等にするためによく振ってふたを開けると芯の付いた爆竹を差し込む。

__火薬の燃焼で確実に点火できる、これでいつでも着火可能だ。

 家のパソコンに犯行声明と後輩の自殺未遂について書いた物を残す。
 時間が来たら今日の為に加入したソーシャルネットワークサービスに投稿されるように予約済みだ。



  ホームルームが始まり、教師は一馬が無断欠席している事に気が付いた。

 しかし、いつもの様子から特に問題ないと親に連絡することもなく出席簿に欠の印を入れた。
 居ても居なくても変わらないのだ。

 二時間目がやってきたとき、パンという音と共に廊下に青い焔がパッと広がる。
 一度バウンドした後火の付いた爆竹が爆ぜ、切り込みが入ったペットボトルが破れ焼夷剤が教室の前の廊下に広がったのである。
 2度、3度投げつけられた焼夷弾によって黒煙が上がり、火柱は瞬く間に壁を舐める。
 火災警報が鳴り響き、スプリンクラーが作動するが油脂火災に粗い霧状放水は何の意味も持たない。
 出口を炎で塞がれた2年2組の教室に破片弾と焼夷コンドーム弾を投げ入れて離脱する。

 パン! パン! パン!と連続した破裂音がして悲鳴と苦悶の声が上がる。
 粉末消火器を持った教員がたどり着き、初期消火を試みたがもう消火器で何とかなる火勢ではなく消防隊が到着するまで轟々と燃え続けた。



 中に居た岡村雄太は、イノブタ……井上一馬がおらず、イジリがいの無い奴を六人くらいで交互にからかって遊んでいた。

「おら、もっと大声で『お願いします』って言わないとこれは返せないなあ」
「なに? 言えない? お前もイノブタみたいに詰めようか?」
「俺は知ってるんだぜ、わが身可愛さにイノブタを売った事。アイツが知ったら泣くかな」
「いや、イノブタは案外強いんじゃね? まあ、どうでもいいけど」

 イノブタに次いで弱いヤツから教科書を取り上げた状態で現代国語の授業が始まった。
 授業を真面目に受けるふりをしているが、こうすることで教師からの信用を勝ち取れるのだ。
 チクられても「勉強できる岡村君はそんな子じゃありません」と教師がわざわざ弁護してくれるのだから使わない手はないだろう。
 岡村は今度イノブタから金巻き上げて彼女へのプレゼントにでも当てようかとぼんやり考えていた。

 そこに、パン!という音が聞こえた。

 ペットボトルが跳ねるような音にシャっという気味の悪い音がして次の瞬間、火災報知機が鳴った。
 女子が引き戸の外の黒煙と炎に悲鳴を上げる。
 国語教師が教室の前の引き戸を開けようとしたとき、戸は熱くて触れる状態ではなかった。

「窓側に集まれ!」
「窓開けろ!」

 熱でパン!とガラスが割れると、スプレー缶のようなものとピンク色の水風船のようなものが3つづつ投げ入れられた。
 制汗剤の缶にはんだ付けされたような蓋がある金属製の筒だ。

 次の瞬間、金属製の筒が爆ぜた。

 弾殻だんかくとして使われたスプレー缶のアルミ片とネジ、パンチボードと言った破片材が超高速で撒き散らされ、37人のうち約半数が至近距離で破片を浴びた。

「うぎゃあぁあ」
「目がぁあああ」
「いやあぁぁ」

 爆発物に近い位置にいたある男子生徒は破片で悶絶し、出血性ショックで死亡した。
 爆薬が使われていない爆発物でこれだけ被害が出たのは炎から逃げようと密集していたためで、焼夷弾との合わせ技である。
 避難誘導で校庭に集まる様子を見て窓から必死に叫ぶ。

「早く助けてくれ!」
「まだ中に居るんだぞ!」

 水風船状の物が裂けて飛び散った内容物に火が付き、教室の中にも火が入ってきた。
 三階の窓から飛び降りるものも出たがそれは同級生の肉の壁で飛来する破片から身を守ったものであり、爆発物に近い位置にいた重傷者たちは窓枠を乗り越えることも出来ずにそのまま炎に巻かれていった。

 岡村は全身に破片を受け、痛む体を動かし窓枠に這ってゆく。

__こんな所で死んでたまるか。これはイノブタの仕業か、生き残って絶対ぶっ殺す。

 立った状態で喚き散らして煙を吸って壁にもたれかかるように倒れた女の体を踏み台にし、窓枠まで登ろうとする。
 足首にはボルトが突き刺さり感覚もない。
 黒煙の天井が被い、後ろを見ればもう炎がそこまで迫っている。
 消防車のサイレン音が聞こえるが、だんだん音が小さくなってくる。

__なんで行っちまうんだよ、俺はここだよ。

 岡村は窓枠に手を掛けたところで、力尽きた。



  一馬は最後の焼夷コンドーム弾を投入すると速やかに階段を使って離脱し、中庭方向から裏門へと脱出する。

 そして何事もなかったかのように公園で時間を潰している所を警察に補導された。
 ニュースの一面を飾ったのは、いじめ自殺未遂事件のあった高校での放火殺人事件だった。

 生徒28人が死亡した事件の容疑者として逮捕された一馬は犯行を自供した。
 その二日後、飛び降りた後輩の少女は意識が戻らぬまま息を引き取った。

 供述調書の中で、一馬はいじめの黙殺という学校側の悪習や後輩の女子の自殺について滔々と語った。

 未成年ということで実名報道こそされないもののネットではすでに特定され、SNSに予約投稿された犯行声明と普段の様子が繰り返し報道されていた。
 付き合いも無い同級生に「前からおかしい人だった」と言われることも予見して、犯行予告文にこう記している。

__事件があると、よく知る同級生が現れる。
__だが、それは凶行に及んだ人間の人格を否定するスパイスに過ぎない。
__例え僕が首を切られて死んだとしても、僕以外味方はいないのだからよく知りもしない同級生に勝手に批評されるのだろう。
__僕がこういう仇討ちをしようと思うまでに何度も助けを求めたことを無視してなお狂っていたとするなら、正気はどこにあったのだろうか。

 井上一馬は、爆発物取締法および現住建造物等放火と殺人で起訴された。
 未成年だが計画的で、治安維持に関わる重大な事件であるということもあり少年院に送られることになった。

 イジメの報復に爆発物を使って焼殺した行為に対して弁護する者はいないし、ネットでも「キチガイ」という扱いを受けていた。

 「死刑にしろ」という書き込みや「拷問したうえで殺せ」と言った過激な書き込みもネットの至る所で見かける。
 いじめ殺人のニュースなどで犯行グループが分かると「死刑」とすぐに喚きたてる層がいる。 

だが、はやし立てる内容と彼の行動に何の差があるというのか。
 安全圏から一方的に非難して溜飲を下げるか、苦痛を受けたものが実際にやるかの違いである。

 世の中には感情的になりそうな事件が山とある。
 法に則った処分が軽すぎるのではないかと思うようなこともある。
 しかし、法治国家であるが故に私刑、仇あだ討ちは許されないのである。

 その後の彼がどうなったかは高い塀の中にいて分からない。
 模範的な囚人をしているのか、それとも炎の中に消えた仇敵の事を考えているのか。
 あるいは、いつか出所した時に本を出そうと考えているのか。

 すべては彼が刑期を終えるまで……。

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